2017年 12月 11日
ケネス・ブラナー監督作 『オリエント急行殺人事件』
フィニーは、追い詰めるためにワザと高圧的に喋ると、耳障りな気がしたものですが、ブラナーが捲し立てるとすっかりシェイクスピア劇になって、逆に爽快というね
デビッド・スーシェが独特の拘りぶりを愛すべき質に造形しましたが、そのあたりは冒頭に描かれただけで、それ以降はさらりとキュート。
イギリス紳士っぽさがありました。
なんだかね、ちょっと金田一耕助を思い出していました。
原作に寄せた風貌で当たり役となった俳優さんもいるところへ、まったく風貌の違う俳優さんで演じさせた『八っ墓村』のことを。
真相を解いてみせる語調など、あれはあれで確かに金田一だったなと感じさせました。
原作と変えてあるとはいえシドニー・ルメット版のキャストは完成された印象でした。
イングリッド・バークマン、ローレン・バコール、バネッサ・レッドグレープ、ショーン・コネリー・・・大スターの存在した時代だから出来た作品。
今作ではやはり設定変更はありましたが、ミッシェル・ファイファーがローレン・バコールをリスペクトしたかのように大人のカッコイイ女性を演じていました。
最も意外なキャスティングであったジョニー・デップも顔に傷痕をつけ世界中を睨みつけた目つきもギャングらしくて。
病的にしか見えないポルーニンと品格の感じられないボイントン演じるアンドレイニ伯爵夫妻以外は違和感も残念感もなく。
(美貌の絶頂期だったジャクリーン・ビセットが息をのむ美しさ。こうゆう伯爵夫人であってほしかったのよ)
キラ星のような大スターがそこにいるだけで成り立つ作品というものは既にないのですから、狭い車内を活かしたカメラワークや、自然の猛威を迫力あるCG・VFXで描いたり、優雅なだけでなくアクティブな場面もあってよりドラマチックでした。
特に、ラチェット殺害場面がよかった。
儀式のようなルメット版と対照的に、衝撃的でした。
名を変え素性を隠し周到な準備をして、遂に達成するその瞬間の、それぞれの憎しみが爆発して印象的な場面でした。
ポアロが乗客たちに、解明した真相を告げる場面もまた、前作の印象を超える素晴らしいアイデアでした。
トンネル入り口に設えられた横長のテーブルに乗客たちが並んで座るショットはさながら「最後の晩餐」。
ポアロの決断の苦しみもしっかり描かれていました。
先に下車したポアロが見送る車両の窓から乗客たちが見下ろしているラスト。
皆、安堵の笑みも消えて、いずれも硬く寂しげな表情。
復讐を遂げた後の彼らの行く末の暗く厳しいことを暗示させました。
美しい青い列車が葬送列車のようでした。
有名すぎる推理作品に課せられた、いかに結末までを面白く引き付けるかは、なんとかクリアできていたのではないでしょうか。