2007年 04月 29日
多和田葉子 『海に落とした名前』 新潮社
とりあえず表題作だけ読みました。ニューヨーク発成田行きの飛行機が海に不時着する。生還し外傷は無かったもののショックから記憶を失ってしまった女性。全ての荷物を置いて脱出したため、手がかりらしきものはポケットの「レシートの束」だけ。病室に現れた担当医の親戚だという兄妹が、レシートの店名や商品略語から何を買ったのか推理したりして記憶を取り戻す手助けをしてくれるのですが、そのうち彼女を支配するようになります。
普段は経費として必要とされる人以外には捨てられてしまう紙切れにしか自分を取り戻す手立てがない。結局、レシートは趣味や背景が分かるだけでアイデンティティを証明するものにはならない。名前が思い出せないだけで、社会から跳ね飛ばされてしまう不条理。
思い出すこと、誰か自分を知ってる人が名乗り出てくれるまで、ただ受身すぎる主人公にイライラ(笑) 現代社会で生活するために必要とされる存在証明が無くて人はどこまで生きられるのかしらん?病院へ行かなきゃならない事態が起きた時、保険証ないと面倒か。
韓国で、出先で事故にあい記憶喪失のまま支えてくれた第一発見者の男性と家庭を持った女性がいたということが実際にありましたが、日本では無理か?税金とか保険とか・・・とりあえず今を生きるしかないのだと無理やり説得する怪しい人物にいいように弄ばれるより、施設のほうが安全じゃないの?と実も蓋もない感想です(笑)
手荷物は全て置いて脱出しろといわれても陸地が見えててボートに乗れるなら、私はバッグだけは離したくないわ。
他の短編は未読なので感想は後日。
明日は久し振りの観劇。古川悦史さん客演・モダンスイマーズの『回転する夜』 を観るのだ。 なに着てこ♪