山本周五郎 『人情裏長屋』 新潮文庫

将門ならともかく、なんだって知盛とは仕事したくないんでい

以前勤務していた職場で知り合いになった方から度々「山本周五郎を読みなさい」と言われていました。
最近映画化された『さぶ』 『雨あがる』、黒澤作品で『赤ひげ診療所』、『椿三十郎』の原作『日日平安』。昔ドラマ化され最近では白石加代子さんの一人語りで上演された『その木戸を通って』など、ストーリーは知っているものはあっても未読でした。
正直、時代小説はあまり読む気になれなかったのですが、短編ならば読めるかな。
で、『人情裏長屋』。
結構、軽快な文脈、滑稽で洒脱なお話しが多かった。「ちょいと、あんた」 とか 「おう、今けえったぜ」 とか、江戸言葉も小気味いいんですね。 表題の 『人情裏長屋』 これ、昔 「ぶらり信兵衛~」というタイトルでドラマ化された原作でした。
剣の腕は一流、道場破りで門人を蹴散らし、師範代までをも一蹴。最後に出てきた道場主の先生にわざと試合前向き合っただけで「参った」。その上、諸国の名手達人と戦ったが先生ほどの方にはお会いしたことが無いと持ち上げる。
既に勝てそうも無いぞと困っていた先生は、内緒で口止め料を下さるんで、それで生計を立ててるという愉快なお話。

『雪の上の霜』 は、 『雨あがる』 の三沢伊兵衛が登場する。
「他人の席を奪うことはできないが妻には幸福を与えたい」と悩む相変わらずの伊兵衛です。妻のおたよさんも相変わらず。「どうぞあなたのお心の済むように」。
後日談ではなく前日談というところ。仕官先が無く峠で荷物持ちを始めるのだが
挨拶もなく勝手に商売をしたと街道の馬子や駕籠屋に因縁をつけられてしまう。
商売といっても客に騙されたりでろくに稼げてもいないのだが。
しかしやっぱり三沢。勘弁して下さいと謝り、助けを求めながらも7-8人を倒してしまう。
倒しておいて平謝り。『雨あがる』 と同じような場面もあります。

『ゆうれい貸屋』 は、昭和34年に尾上松緑出演で上演されたとか。
仕事もせず女房に愛想をつかされた男の元へ、なんと女の幽霊‘お染’が現れる。
幽霊なのに平然とされ気をよくしたお染は男に惚れてしまう。
このお染が生計をたてるために成仏してない幽霊を雇って‘恨みを晴らす’代行屋の商売を提案する。
これだけでも傑作なんですが、可笑しいのが、お岩さんとか平知盛とか由比正雪、お菊さんらが雇ってくれと強引に粘られ困ったというくだり。「お岩さんなんか執念深いから押しかけてくるかも」ですって。
打って変わって『豹』は現代小説。実際の動物園から豹が逃走した事件から創作された作品でしたが妖しいムードがまた面白かった。

全ての作品の、最後の一行がなんとも格好がいい。竹を割ったようなとは性質のことを指しますがそんな言葉を当てたくなります。作品によっては、ほろ苦い感慨を得るものもありますが、爽快な余韻を残します。

悠々とした上質な時間がありました。

by august22moon | 2007-05-17 19:20 | 読書 | Comments(0)