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トルストイ 『クロイツェル・ソナタ / 悪魔』 新潮文庫

(1/10 追記)
効果的な選択

長い列車の旅で乗り合わせた、嘗て妻を手に掛けた男の告白を聞く、という形でお話は進んでいきます。
聞き手はわれわれ読者なんでしょうね。

この男の論理は「明らかに自分の考えをひどく尊んでいる」。
人類の目的が幸福、善、「なんなら愛でもかまいませんが」その目的を妨げるのは
「さまざまな欲望」。
そのなかでも一番悪質なのは性的欲望なのだと。
独身時代の禁欲的生活を送っていた男は結婚しても
新婚旅行を「淫蕩の公認以外のなにものでもない」。
理想の結婚生活ではなかったと告白する。
夫婦喧嘩での失望も、しばらくすると「お互いの憎悪がまたしても恋情の下に」隠されてゆく。
その繰り返しに次第に「行く手に立ちはだかっているものに慄然としてゆく」。

そして、ひとりの男が現れる。
ヴァイオリンを嗜む男をなぜか積極的に招き入れておきながら
妻と親しく演奏会をするまでになるのを嫉妬するようになる。
一時はこの嫉妬も妻の一蹴によって治まったかに思えたが、その嫉妬の炎が再び燃え上がるのは二人が演奏したベートーベンのクロイツェル・ソナタだった。
「特に導入部のブレストに」
「この音楽ってやつは、それを作った人間のひたっていた心境に、じかにすぐわたしを運んでくれるんですよ。」

音楽はさまざまな効果はあるが決着はつけてくれない、と。
その音楽に男は今までに感じられなかった情感を自分の中に発見する。

女性より男性のほうが嫉妬深いといいますが、そのうち妻と男との関係を疑うようになり、
出張中でも妄想に囚われるようになってゆき帰宅したところに、男と妻が偶然部屋にいたのと、かち合ってしまい遂に爆発してしまう。


ベートーベンのこの曲を聴いたことがあるかな?
クラシック音楽はタイトルと一致しないことが多くて。
是非、改めて聴きたくなります。

全編にわたるこの男の論理には、ただただ疲れました。(苦笑)
女性観は普遍的な部分もあり頷けないではないですが。

1887年に着手したこの作品がトルストイのヴィタセクスアリスを反映させたものと想像はできますが、あとがきによるとトルストイが1862年の結婚前に付き合っていた女性が同じ村に住む女だったと知りソフィア夫人は激しい嫉妬に悩まされたことがあるらしい。

1889年に書かれた同収録の『悪魔』は実在の(人妻と恋に落ち、その後、別の女性と結婚し、その人妻を射殺した)事件を元に書かれてるとはいえ著者自身の過去とダブる部分もある作品であるため妻を傷つけると考えて出版は見合わせていたそう。
そうなると予想はできたでしょうに、小説家として書かずにはいられなかったのでしょうね。

大学を優秀な成績で卒業し、前途有望とされていたエフゲーニィ。
父の死後、実は膨大な負債を抱えていたと知り、残された領地の再建に乗り出す。
幾たびかの危機も乗り越え経営も家庭も安定した生活を取り戻したところへ
嘗て「僕だって修道士じゃない」と青春を謳歌したころの‘過去の女’が現れる。
葛藤に苦しんだ挙句、彼が出した答え。それは短絡的で随分と平易な言葉だ。
「じゃ、このほうがましだ。」

『悪魔』という作品の存在を知らなかった夫人は『クロイツェル・ソナタ』が検閲を通らず出版されないと知ると、全集に収録されるよう皇帝アレクサンドル三世にまで直訴し出版にこぎつけたとか。
トルストイはもちろんこの妻の行動を不快に思っていた。
これが妻としての復讐だったと考えるのは穿ちすぎでしょうか。


『スィニートッド』公開に先立って来日したジョニー・デップ。
復讐したい相手は何人もいるが
「黙っていることが復讐」とオトナの発言。素敵♪
大体ぼそっと喋る方なので、どんな単語を使われたのか聞き取れず残念。
まぁ全世界に配信されるかもしれないインタビューで本音は言わないでしょうが、これもなかなかに恐ろしい方法。
うつむき加減に言ったのが尚更・・・。

by august22moon | 2008-01-09 23:54 | 読書 | Comments(0)

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