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カミュ 『ペスト』 新潮文庫

カミュ 『ペスト』 新潮文庫_d0109373_2434384.jpg舞台『カリギュラ』観劇が切っ掛けで読んでみようとおもいました。
カミュはずいぶん前に読んだ『異邦人』以来。

194*年にペストが発生したアルジェリアの港町オラン。
4月。まず、医師リウーの診療所の外やアパート入り口で鼠が発見される。
門番はたちの悪いイタズラと片付ける。
いつしか町のそこかしこで鼠が目に付くようになり、市民は徐々にただならぬ気配を察する。
遂に門番が発症しその病状はペストであることを認めざるを得なくなる。

完全に閉鎖され外部との接触を絶たれた町での人々の戦いと絶望を中盤までは淡々と簡潔に描かれます。
毎週繰り返し同じ芝居を上演するしかない出国を許されない劇団。
繰り返し同じ映画を上演する映画館。列車の到着しない駅。日常品の不足。小競り合い。閉ざされる鎧戸・・・。
新たに作られる墓所。簡略化されるその儀式。上昇する数値に麻痺してゆく市民。隔離施設に使われる競技場。
後半、リウーの元に送られた、発症した判事の息子の病状からは残酷な絶命までが壮絶な筆跡で描写されます。

「僕はこの町や今度の疫病に出くわすずっと前から、すでにペストに苦しめられていたんだ。」

もちろんこの‘ペスト’という無差別で公平な宣告と侵略は戦争などのメタファーであるのでしょうが、これは後半タルーという、次席検事である父を「社会の名において」「もっとも卑怯な殺人」と、法廷での刑を宣告する姿を断罪する男の半生の告白という形で表現されています。
年が明けようやくペストの終息をみた後、医師リウーはこの数ヶ月の市民のようすに「はっきり一つの名を与えることができた。」
「彼らがすでにずっと前から演じてきた役割・・・最初はその顔が、今ではその服装が、失踪と遥かな祖国とを物語っている亡命者という役割の、扮装を身につけるに至ったのであった。」

「彼らは今では知っているのだ。人が常に欲し、そして時々手に入れられることができるものがあるとすれば、それはすなわち人間の愛情であることを。」

著者は最後に「ペストは / 決して消滅することもない / 数十年の間、家具や下着類の中に眠りつつ生存することができ / しんぼう強く待ち続けていて / どこか幸福な都市に・・・」と教訓を忘れていません。
読後に残るのは恐怖というより、リウーの穏やかさ始め登場人物たちに垣間見られる慈愛に満ちた‘側面像(シルエット)’でした。

by august22moon | 2008-02-19 23:40 | 読書 | Comments(0)

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