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垣井道弘 『緒形拳を追いかけて』 ぴあ

やさしかれやさしかれ

06年に出版された本が新刊・話題の書コーナーに平積みされていました。
映画『MISHIMA』 の取材で知り合って以来、交流が続いた垣井氏が見つめてきた緒形氏についてインタビューを中心に書かれていますので、著者が見ていない部分はほとんど触れられていません。
新国劇との出会いと別れ。映画の魅力。様々なタイプの監督との出会い。
手応えのあった仕事も意外に評価をされず残念な思いをしたり。
喉を潰し、思い通りに行かなかった舞台が高評価だったり。
やりたい役を演じられることがなくなったと嘆くあたりは、常に第一線で新しい役に取り組んできた役者さんならではの悩みでしょうか。

終盤、演技論の話になります。
「役者は普段だよ」と常日頃から言っていた緒形さんは演技や役作りは教えられるものではないと話します。
「日々何を思って過ごすか。日常と非日常みたいなものを、どこで自分のものにするか。」
喜怒哀楽の表現は日常の観察力が反映されると。
しかし、役になりきるには、
「あんまり日常みたいなものを引きずらないようにする。」
「俺たちの仕事は日常を忘れ去ることのおもしろさかもしれない。」
「この稼業は自分を捨てるということのおもしろさもあるわけだ。」
「自分がある人に変わっていく。そのときに自分と役の自分がどっかですれ違うんだ。」

とここまで読んでTVを点けると、
『僕らの音楽』で福山さんと対談中の堤真一さんが、偶然にも、役に没入したいがそうなると自分の演技を客観視できなくなるジレンマについて話していました。

巻末には映画・舞台・TVなどの全仕事が記されています。
私が印象に残っていたドキュメンタリーがあったんですが、どれなのか・・・。
南米アンデスへの旅のドキュメンタリーでした。
地元の少年と意気投合して、紙をガムテープでぐるぐる巻いてボールを作り、少年とキャッチボールをしたりします。
別れの日。少年は記念に、身につけていたスカーフかなにかを緒形さんに渡します。
ボクのことが忘れられなくなるよと、涙を誤魔化すためにかちょっと生意気なことを言って周囲のオトナを笑わせます。緒形さんは涙を堪えたような限りなく優しい全てを包み込む笑顔でお礼を言います。
あの少年のことをふと思い出しました。
89年のことですからもう大人になってますね。
成長して、遠い旅人のことをまだ憶えているものなのかしら。
日々に紛れて忘れてしまっているのかしら。

by august22moon | 2008-11-01 02:47 | 読書 | Comments(0)

出会った本、映画の感想。日々のこと。


by august22
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